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2014年10月11日 (土)

今年のノーベル物理学賞:なぜ、青色LEDなのか

今年のノーベル物理学賞は名城大学教授で名古屋大学特別教授の赤崎先生、名古屋大学大学院教授の天野さん、カリフォルニア大学サンタバーバラ校の中村さんが受賞した。おめでとうございます。授賞理由は、青色発光ダイオード(青色LED)の開発。日本での研究成果が世界に認められた結果で大変喜ばしいかぎりです。

なぜ、他の赤や黄色や緑色のLEDを開発した研究者は含まれず、青色だけが選ばれたことに不思議に思った人は多いかもしれない。 

その理由は、このノーベル賞の授賞理由がLEDというデバイスの開発ではなく、その基となる結晶の作製法の開発にあるからだといってよい。すなわち、LEDに使われている半導体結晶、窒化ガリウム(GaN)の結晶成長法の開発に対して与えられたものです。

LEDは半導体の伝導帯に注入された電子と、価電子帯の正孔(電子の抜けた穴)が再び結合するときに発生する光を利用しています。その時発生する光の波長は、電子のエネルギーと正孔のエネルギーの差に対応します。その差は、丁度伝導帯と価電子帯のエネルギー準位の差(エネルギーバンドギャップ、簡単にバンドギャップ)になるので、ほしい光の波長にあったバンドギャップを持った半導体結晶を使ってLEDを作らなければならないのです。

LEDの原理をもう少し詳しく説明しましょう。それには半導体のp-n接合を使って説明するのが簡単です。半導体には、電子が主に伝導に寄与するn型半導体と、正孔が主に伝導に寄与するp型半導体があります。このn型とp型を図のように接合したのがp-n接合のダイオードのエネルギー状態の図です。

Photo


この図で、(a)はダイオードに電圧がかかっていない状態で、p型とn型の半導体のフェルミ準位が等しくなっています。フェルミ準位とは電子の最大の平均エネルギー状態ですので、電圧がかかっていなければ電流が流れないので、フェルミ準位は等しくならなければならないのです。図中●は電子、○は正孔です。この状態では、p型の伝導帯のエネルギーはn型より非常に高く、またp-n接合部分の遷移領域のエネルギー勾配も急なので、n型の伝導帯の電子は遷移領域にほとんど入り込めません。また同様に正孔に対しても(エネルギーは逆に働くので)n型の価電子帯のエネルギーがp型よりも高く、遷移領域の勾配も大きいので、正孔も遷移領域には入り込めないので、正孔と電子の再結合は起きず、発光は起きません。

図中(b)はp型からn型に向かって電圧をかけた場合です。図の左から右に向かって電圧がかかっています。左が正で右が負の電極につながっています。このとき、電場は主に遷移領域にかかります。n型の領域のエネルギーはp型のエネルギーより高くなり、フェルミ準位は遷移領域で勾配を持ちます。伝導帯と価電子帯の勾配はゆるくなり、電子および正孔は遷移領域に入り込みます。ここで速度が小さくなった電子と正孔は出会って、再結合し、発行するのです。

青色発光に必要なバンドギャップを持った半導体は、セレン化亜鉛(ZnSe)や窒化ガリウム(GaN)がありますが、比較的作製し易いセレン化亜鉛は発光寿命が短いという欠点があったようです。

赤崎先生は当初から窒化ガリウムに注目され、作製が難しいといわれていた窒化ガリウムの結晶成長に挑戦されていました。窒化ガリウムは自然には存在せず、人工的に作り出す必要があります。しかもデバイスとして使うには、適当な基板上に結晶成長させる必要があります。先生は、種々の結晶成長手法を研究され、結晶成長の大家として世界的に有名でした。

それらの研究の中から、天野さんとともにサファイアを基板とする有機金属気相成長エピタキシャル成長法(MOVPEあるいはMOCVD)を用いて、サファイア基板と成長層の間にバッファ層を入れることで、良質な窒化ガリウム結晶の作製に成功しました。

結晶が出来れば、それから青色LEDを作るのは簡単で、作製された青色LEDは名古屋大学の豊田講堂の時計台の文字盤に使われ、夜のキャンパスに青色の光を放っていたことを思い出します。

このように、青色LEDの作製に成功するまでには結晶成長という大変な吾難問が立ちはだかり、その難問を克服したことがお二人のノーベル賞受賞につながったわけです。

一方、その頃日亜化学工業いおられた中村さんが、青色半導体レーザーの作製に成功したというニュースが飛びこんできて、我々を驚かせました。そのころ、どこでも、レーザー発信できるような良質の結晶の作製には成功しておらず、どんな魔法を使ったのか不思議に思ったほどでした。

中村さんの発明されたTwo-flow MOCVD法は窒化ガリウムの結晶成長法では画期的で、これによって安定したLEDの大量生産が可能になりました。しかし、これも、赤崎先生らの基礎的な研究の結果の上での成功でもあるわけです。

すなわち、青色LEDの開発には、良質の結晶を成長させることで、ほとんど100%終わっているといっても過言ではなく、結晶が出来ればデバイスは直ぐに出来る状態にあったということなのです。

今回の3人の方々のノーベル賞受賞は我が国の結晶成長を基盤とする半導体基礎研究とそれを工業化できる高い工業技術を示したもので、喜ばしい限りです。

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コメント

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青色LEDは原理的には単波長光で、鋭くエネルギーが大きい。眼に与えるダメージは大きい。単一波長ではなく、青についてはある程度波長の幅(多波長)の光源を考えなければ、ヤバイ

いやホントに凄い、尊敬します!

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