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2011年11月11日 (金)

気体の圧力、音速そして分子の熱運動

私たちは、地球上で大気の圧力を受けて生活しています。

 

大気圧は普通は1気圧、すなわち1013 hPa(ヘクトパスカル)です。

 

この大気圧は、空気の分子(おもに酸素分子と窒素分子)が地球の引力によって引き寄せられることによる、空気の重量によって起きています。

すなわち地球の表面の圧力は、その上に乗っている空気の層全体からの重量によっているのです。

この重量は、1013 hPaすなわち101300 Paの圧力を力に変換すれば得られます。

1 Pa1平方メートル当たり1 N(ニュートン)の力が働いていると定義されます。

また質量(地球上では重量でも構わない)1 kgの物体に働く地球の引力は、重力の加速度、9.8 N/kgをかけて、9.8 Nの力となります。

地球の表面の1平方メートルの上に乗っている空気の層による力の大きさは101300 Nなので、上に乗っている空気の重量は、この値を9.8で割って、10337 kg、すなわち約1トンになります。

 

大気中ではこれだけの力が四方八方から物体を押しているのです。人間の体もこの大きな力で押されているのです。

では、なぜ人間もほかの生物や物体も押し潰されないのでしょうか?

 

それは、人間やほかの生物、物体の内部も大気圧と同じ1気圧になっているので、内部から大気圧を押し返しているために潰れないのです。

これは風船と同じで、風船も中の圧力が1気圧なので潰れません。

しかし、この風船を圧力の低い環境に持ってゆくと、外の圧力と中の圧力が等しくなるまで膨らみます。

人間も、いきなり圧力の低い環境に入ると、体内の圧力が外よりも高くなって、体調が崩れてしまいます。

飛行機に乗って耳が痛くなったりするのはそのためです。

また、エベレスト登山などでは、低い気圧のために、何度もベースキャンプを往復したりして、ゆっくりと体を低い圧力に慣らす必要があるのです。

 

では、なぜ空気の圧力は四方八方から同じ力で押しているのでしょうか?

 

これには、圧力とは何かということを考える必要があります。

 

気体の圧力とはなんでしょうか?

 

この圧力は、気体分子が壁に衝突することで生まれます

 

ここで、物理の常套手段、非常に簡単な場合を考えます。

 

Photo

 

上の図のように箱に分子が1個入っていて、分子は箱の長さ方向にのみ運動するとします。

 

分子が壁に及ぼす力は、力と時間の積、すなわち力積と、その力によって起きる運動量、すなわち分子の質量と速度の積、の変化量が等しいことを使って導くことができます。

 

分子は、壁と壁の間の距離を往復する間に1回壁に衝突して、運動の方向が360°変化するときに、壁に力を与えます。

この時の分子の運動量の変化は、衝突前の運動量と衝突後の運動量の和になり、分子の持つ運動量のちょうど2倍になります。

 

この時の力積は壁が受けた平均の力と分子の往復時間を掛けたものになります。

 

分子が壁に衝突した瞬間は壁に大きな力に力が働くのですが、分子が箱の中を運動している間は壁に力は働かないので、壁に与える力の平均と往復時間を掛けたものが運動量の変化と等しいというものです。

(一つ前の記事(20111110日「釘はなぜ打ち込めるのか? 力積、運動量そして運動エネルギー」を参照してください)

 

箱の中の分子の往復時間は

 

往復時間=2×箱の長さ÷分子の速度

 

です。「箱の長さ÷分子の速度」が分子の片道の時間ですので、往復時間はそれを2倍したものです。

 

力積は

 

力積=平均の力×往復時間=2×平均の力×箱の長さ÷分子の速

 

です。

 

一方、運動量変化量は

 

運動量変化量=2×分子の質量×分子の速度

 

です。

 

そこで、力積=運動量変化量とすると2倍が取れて

 

平均の力×箱の長さ÷分子の速度=分子の質量×分子の速度

 

両辺を(箱の長さ÷分子の速度)で割ると平均の力が出ます。すなわち計算すると

 

平均の力=分子の質量×分子の速度の2乗÷箱の長さ

 

これが、1個の分子が壁に作用する平均の力です。

圧力は壁の面積でこの力を割ったもの、すなわち

 

圧力=平均の力÷壁の面積

  =分子の質量×分子の速度の2乗÷箱の長さ÷壁の面積

  =分子の質量×分子の速度の2乗÷(箱の長さ×壁の面積)

 

となります。

 

最後の式で(箱の長さ×壁の面積)は箱の体積ですので、この部分を箱の体積で置き換えて

 

圧力=分子の質量×分子の速度の2乗÷箱の体積

 

さらに(分子の質量×分子の速度の2乗)は分子1個の運動エネルギーの2倍です。

 

したがって、

 

圧力=2×分子の運動エネルギー÷箱の体積

 

となって、1個の分子が壁に作用する圧力は1個の分子の運動エネルギーを箱の体積で割ったものになるわけです。

 

ここで、圧力に箱の体積を掛けると

 

圧力×箱の体積=2×分子の運動エネルギー

 

となります。これを気体の圧力と体積と温度の関係を示す法則、ボイル・シャルルの法則と比べてみましょう。ボイル・シャルルの法則は

 

圧力×体積=気体定数×温度

 

です。「気体定数×温度=2×分子の運動エネルギー」とすれば、全く一致することが分かると思います。

 

ところで、上で考えたのは箱の中で1個の分子が箱の長さ方向だけに運動しているという、非常に特殊な場合でした。

普通はこんなに上手い具合には行きません。

分子は下の図のように壁のあちこちに衝突して進みます。

 

Photo_2

 

分子が壁に衝突して反射する時、エネルギーを失わない、すなわち弾性散乱するならば、箱の長さ方向の分子の速度成分(箱の真下あるいは真上から見ているときの分子の速度:実際の速度の大きさより小さい)の大きさは衝突によって変化しないので、上の図の左右の壁の間を往復する時間は

 

往復時間=箱の長さ÷分子の速度の箱の長さ方向の成分

 

となるので、速度について、箱の長さ方向成分に変えればよいことになります。

 

同様に、上下方向は速度の箱の上下方向成分、奥行き方向は速度の箱の奥行き方向成分と変えれば、どの方向にも同じ式が使えることになります。

 

したがって、

 

左右の壁の圧力×箱の体積=2×分子の運動エネルギーの箱の長さ方向成分

上下の壁の圧力×箱の体積=2×分子の運動エネルギーの箱の上下方向成分

奥行きの壁の圧力×箱の体積=2×分子の運動エネルギーの箱の奥行き方向成分

 

そこで、この箱の中に多数の分子、例えばN個の分子が存在していて、分子間の衝突も弾性衝突とすると、一方の壁の分子の運動はもう一方の壁の分子の運動に伝えられて、その間にエネルギーの得失は無いので、1個の分子が運動したと考えても良い事になります。

 

さらに、分子が多数あると分子の平均の速度は左右、上下、奥行きのどの方向も等しいと考えて良いことにもなります。

 

この方向の成分のことを自由度といいます。

分子は左右、上下、奥行きの3つの方向に自由に動くことが出来て、分子の運動はこの3つの方向の成分の組み合わせで記述できるという意味で、分子は3つの自由度をもっていると言います。これ以外の成分が入ってきた場合は、それに応じて自由度は増えてゆきます。

たとえば、酸素分子のように原子が2個繋がっている分子では、回転していることが見えるので、回転の自由度が増えます。回転には2つの方向が考えられるので、2原子分子の自由度は2つ増えます。しかし、今は、この回転の自由度は考えないことにします。

 

分子が多数ある状態では、箱の上下も左右も奥行き方向も箱を回転させれば同じことなので、分子の平均の速度の成分も上下、左右、奥行き方向どれも等しくなるはずです。

 

したがって、壁の圧力は、上下、左右、奥行き方向どれも同じ値になります。

 

箱の中を大気圧にしても状況は同じです。そこで、その状態で箱の壁を開いても、壁にかかる圧力は同じです。

 

これが、大気圧が上下左右から同じ圧力で押している理由なのです。

 

ところで、N個の分子が箱の中にある場合、

 

圧力×体積=2×N×分子の運動エネルギーの1つの自由度

 

と書けます。

 

一方、ボイル・シャルルの法則から

 

圧力×体積=気体定数×絶対温度

 

です。いま、1モルの分子気体について考えるとNはアボガドロ数になります。

気体定数は通常は1モルの気体に対する値を使います。

気体定数をアボガドロ数で割った値はボルツマン定数になります。

 

これを整理すると

 

2×N×1個の分子の運動エネルギーの1つの自由度=気体定数×絶対温度

 

から

 

1個の分子の運動エネルギーの1つの自由度=ボルツマン定数×絶対温度÷2

 

が出てきます。

 

この式は、もう少し拡張すると(実際にはちゃんとした統計力学の計算をして)

 

1個の分子のエネルギーの一つの自由度=ボルツマン定数×絶対温度÷2

 

と書くことが出来ます。

 

これは、1個の分子の持つエネルギーの一つの自由度には等しくボルツマン定数×絶対温度÷2(ボルツマン定数をk、絶対温度をTとするとkT/2)分配されるということで、エネルギー等分配則と呼ばれています。

 

このように、上の議論から、気体の温度と分子の運動エネルギーを結びつけることが出来ました。

 

エネルギーの一つの自由度では分かりにくいので、分子の持つ運動エネルギーと温度の関係を出してみましょう。

 

運動は3つの自由度をもっています。したがって、分子の運動エネルギーは一つの自由度の3倍になります。

 

すなわち、

 

分子の運動エネルギー=分子の運動エネルギーの左右の成分+上下の成分+奥行きの成分

 

ですが、どの方向も等しいと考えられるので、

 

分子の運動エネルギー=3×分子の運動エネルギーの一つの自由度

 

と出来ます。したがって、

 

1個の分子の運動エネルギー=3×ボルツマン定数×絶対温度÷2

 

となって、分子の運動エネルギーと温度の関係を出すことが出来ました。

 

1モルの分子の全運動エネルギーは0.5×分子量×速度の2乗ですから

 

0.5×分子量×速度の2乗=3×気体定数×絶対温度÷2

 

あるいは

 

分子量×速度の2乗=3×気体定数×絶対温度

 

です。

 

分子の熱運動の速度は

 

速度の2乗=3×気体定数×絶対温度÷分子量

 

から求まります。

 

気体定数は8.31 J/Kmolなので、例えば27℃、すなわち絶対温度300 Kの時の水素分子と酸素分子の速度は分子量が分かるのですぐに計算できます。

水素分子の分子量は2 g/mol=0.002 kg/molなので、なんと秒速1.9 kmという速さになります。

一方、酸素分子の分子量は32 g/mol=0.032 kg/molですので、秒速483 mになります。

これは空気中の音速にほぼ近い値です。

因みに水素中の音速は0℃で秒速1.2 kmで酸素は秒速317 mです。

水素と酸素の音速の比は約4、熱運動の速度の比も約4です。

酸素分子と水素分子の分子量の比は16なので、上の比は分子量の比の平方根でもありますね。


さらに、気体の音速は圧力に依らず、絶対温度の平方根に比例します。

熱運動も上の式から、速度は絶対温度の平方根に比例するので、音速は分子の熱運動と関係していると考えて良さそうです。

 

すなわち、音は、分子から分子への運動の伝達なので、分子の熱運動の速さ以上で、伝達されることは無く、その伝達の速さは、熱運動の速度程度になるということは理解できます。

 

実際には理想気体の音速は

 

音速の2乗=1.4×気体定数×絶対温度÷分子量

 

なので、分子の熱運動の速さは音速の約1.5倍ということです。

音速と熱振動は実は密接に関係しているのです。

 

音速については、また別の機会に詳しく話しましょう。

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