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2011年11月10日 (木)

釘はなぜ打ち込めるのか? 力積、運動量そして運動エネルギー

釘を板などに打つ時に、金槌を使って打ち込むことは常識として昔から知られていることです。

これは、地面に杭を打つ時に大きな槌を使って打ち込むことや、重いものを動かす時に反動をつけて動かすなどと同じで、叩いたり、反動をつけたりすることで瞬間的に大きな力が働くということで、実際に直感的に分かっています。

このことは、力積によって理解できると学校では教わります。

 

この力積、ちょっと分かりにくいと思いませんか?

 

また、力積はその力を受けたときの運動量変化に等しいので、重いものを動かす時には反動をつければ瞬間的に大きな力が働いて動かしやすくなるということは、理解できそうです。

 

力積が運動量の変化に等しいということは後で説明することにして、釘を打ち込む時にどれだけの力が働くかをまずは計算してみましょう。

 

釘を打ち込む時にかかる力は、運動エネルギーを使って計算できます。

 

これは次のように計算します。

金槌を打ち下ろして、釘がある長さだけ打ち込まれたとします。これを移動距離とします。

このとき、釘にかかった力と移動距離を掛けたものは、金槌が釘に対して行った仕事量になります。(仕事については2009221のブログ「エネルギー(カロリー計算1)」を参照してください)

 

この仕事は金槌の持っている運動エネルギーで行われます。

すなわち、金槌の持っている運動エネルギーが全て釘を打ち込む仕事に置き換えられたと考えるわけです。

 

したがって、次の式が成り立ちます。

 

釘にかかった力×釘の移動距離=金槌の運動エネルギー

ここで、金槌の反跳がない場合を仮定しています。反跳があると金槌の運動エネルギーはすべてが釘の移動には使われないため、釘の移動距離は短くなります。ただし、反跳があると、釘にかかる力は大きくなります。

 

この式から釘にかかった力は金槌の運動エネルギーを釘の移動距離で割った値になります。

 

すなわち

 

釘にかかった力=金槌の運動エネルギー÷釘の移動距離

 

です。

 

運動エネルギーは

 

運動エネルギー=0.5×質量×速度の2

 

であらわされます。

 

そこで、打ち下ろされる金槌の運動エネルギーを計算してみましょう。

 

金槌の重さ(質量)は400g前後のものが多いので400g0.4 kg)とします。

この金槌を秒速5 mで打ち下ろしたとします。この速さは、金槌をほぼ1.3 m上から落とした速さに相当しますので、この程度の速さが適当かと思います。

 

これから、

 

金槌の運動エネルギー=0.5×0.4×52

          =5 J

 

すなわち、金槌の運動エネルギーは5 J(ジュール)です。

ジュールは馴染みの無い単位ですが以前「エネルギー(カロリー計算1)」で述べたようにエネルギーの単位です。

 

これで、釘が1 cm(0.01 m)打ち込まれたとすると、釘にかかった力はどれだけでしょうか?

 

これは、運動エネルギー5 Jを釘の移動距離0.01 mで割ればいいので、かかる力は500 N

(ニュートン)です。また見慣れない単位ですが、N(ニュートン)は力の単位です。(2009221のブログ「エネルギー(カロリー計算1)」参照)

釘に500 Nの力がかかったということは、体重約50 kgの人が釘の上に乗ったときの力と思えばいいのです。

 

因みに、400 gの金槌が釘に乗っても、これに重力の加速度9.8 N/kgをかけて、0.4×9.83.92 Nすなわち約4 Nの力しかかかりません。

金槌を打ち下ろすことによって100倍以上の力が瞬時にかかったことになります。

 

それでは、その力がどの程度短い時間かかったのでしょうか?

 

それには力積という概念が必要になります。

 

力積とは何か

 

力学では力積は

 

力積=運動量の変化量

 

という関係が出てきます。この力積とは、力が加えられた時間と力の積、すなわち

 

力積=力×力が加えられた時間

 

です。

 

物体に力が加えられれば、その運動量(質量×速度)が変化するので、力積が運動量変化に等しいということは分かるような気がします。

でも気がするだけではだめなので、きちんと出して見ましょう。

 

ニュートン力学の第2法則によると力は質量×加速度です。

物体にある一定時間、一定の力を加え続けると、物体の速度は加速度×力をかけた時間だけ変化します。

 

すなわち

 

速度変化量=加速度×力をかけた時間

 

です。

 

運動量の変化量はこれに質量をかければいいので

 

運動量の変化量=質量×加速度×力をかけた時間

 

になります。ところで、質量×加速度は力なので、上の式でこの部分を力で置きなおすと

 

運動量の変化量=力×力をかけた時間=力積

 

となって、

 

運動量の変化量=力積

 

になります。

 

そこで前の問題に戻って、釘に力がかかった時間はどれだけなのか計算してみましょう。

 

金槌の質量は0.4 kg、速度が秒速5 mですので、運動量=力積は2 Nsです。これを釘にかかった力500 Nで割ればいいので、釘に力がかかった時間は0.004(4ミリ秒)という非常に短い時間になります。

釘の移動速度は、0.004秒間に1 cm0.01 m)移動したので秒速2.5 mと妥当な値になります。

 

このように、運動を使って、非常に短い時間に物体に力を加えると重い物体でも容易に動かすことが可能という、一般常識が得られるわけです。

 

ところで、力積の考え方は力がかかっている間の時間だけでしか考えられないのでしょうか?

 

例えば多数の粒子が板に衝突している時に板にかかる平均の力も力積で計算できないでしょうか?

 

そこで、この問題を考える前に、ある一定の時間間隔で、一定の力が一定の加速時間作用して、加速しているロケットを考えます。

Photo

例えば上の図のように、水色に塗られた部分だけロケットが加速しているとします。

ロケットに力が働いている時間を加速時間とします。

ロケットの速度はこの加速時間の間、増加しています。

図中エンジ色の線が直線で増加しています。

力が働いていないときは、速度は増加していないのでエンジ色の線は水平になります。

再び、ロケットに力が働くと、速度は再び増加し、図のエンジの線も増加します。

ロケットはこの繰り返しで、徐々に速度を上げてゆくとします。

この時、ロケットに働いている力を「力-1」とします。

 

ロケットの速度はある一定の時間間隔で測定しており、測定ごとにある一定の速度だけ増加しているとします。

図中の矢印が速度を測定している時間で、矢印の間隔が測定間隔で、エンジの線と測定時を示す垂直の破線との交点の赤丸が、その時に測定された速度と時間をあらわします。

 

ロケットが実際にどのように加速されているか分からなければ、ロケットは図の紺色の破線のように速度が増加していると、測定している人は思うはずです。

この場合、加速度は実際の加速度と異なる見かけの加速度が観測されて、したがって、そこに働く力も「力-1」よりも小さい見掛けの力、「力-2」が働いていると考えられます。

 

ところで、最初の測定時と測定間隔を挟んで次の測定時の運動量の変化量は等しいので、

次の関係が成り立つはずです。すなわち

 

「力-1」×加速時間=「力-2」×測定間隔

 

これはどちらも力積です。さらにこの関係は、どの測定間隔でも同じです。

 

したがって、力積は実際の力「力-1」とその力が作用した時間との積でなくても良いという事になります。

すなわち、ある時間間隔での運動量変化量を起こさせたとして、見掛けの力「力-2」とその運動量変化を測定した時間間隔との積であっても良い訳です。

 

この見かけの力は、ロケットに働く平均の力と考えることも出来ます。

すなわち、途中の状況を観測していなければ、ロケットはこの平均の力で加速されているとしても構わないわけです。

 

このように考えると最初の問題、すなわち多数の粒子が板に衝突しているときも、板にかかる力は平均の力で考えて良さそうだということになります。

 

このときの力と時間の関係は下の図のようになります。

Photo_2

 

図中、紺色の縦の棒は粒子が板に衝突した時の力(衝撃力)とその力が作用した時間を示しています。

この面積が粒子の衝突による力積=衝撃力×衝突時間になります。

この粒子がある一定の時間間隔で板に衝突するとして、力積が等しくなるように平均力を与えることが出来て、これがオレンジ色の領域で、力積=平均力×衝突間隔になります。

 

すなわち、衝撃力である時間間隔で力が働く場合と、平均力で持続的に力が働く場合は、力積としては等しく、これによって、板に運動を与える場合の運動量の変化も等しくなるのです。

 

上の図では、衝突間隔を一定にし、衝撃力も一定にしていますが、多数の粒子がでたらめに衝突している場合でも、適当な時間間隔を設定して、平均力による力積を与えることが出来ます。

 

このことは、気体の圧力を考える場合、非常に取り扱いやすくなります。

これについては、また別の機会に話しましょう。

 

ところで、平均力でも力積は同じなので、釘も平均力で、ずっと押し続ければ同じように打ち込めるのでしょうか?

 

例えば1秒間隔で釘を打ち込むとします。

力積は既に計算してあって、400gの金槌で秒速5mの速度で打ち込む時の力積は2N・sでした。

したがって、1秒間隔に対する平均の力は2 Nという非常に小さな力です。

この力は金槌を釘の上に置いただけの力の半分程度なので、とてもこれでは釘は板に入り込みません。

力積が同じなのになぜこのような違いが出てくるのでしょうか?

 

釘を板に打ち込むとき、板と釘の間には抵抗力が働きます。

釘を板に打ち込むには、加える力がこの抵抗力に打ち勝つことが必要なのです。

そのために、力積が等しいだけではだめで、衝撃力が必要となるのです。

 

したがって、摩擦力などの抵抗力が働く時に、衝撃力を使って動かすことが必要になってくるのです。


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コメント

金槌の反跳を無視していますがそれでいいんですかね?
まあ力積は最大二倍にしかなりませんが

通りすがり様

コメントありがとうございます。金槌の反跳は無視して構いません。金槌が完全に反跳する場合は釘が固くて、ほとんど打ち込めない場合に生じます。すなわち金槌の運動エネルギーが釘にほとんど与えられない場合です。金槌の運動エネルギーが全て釘の打ち込みに使われる場合は金槌は反跳しません。糠に釘のような場合です。
通常は、金槌に少し反跳が出ます。この場合、釘にかかる力は大きくなりますが、釘に与えられるエネルギーは小さくなるので、力が大きくエネルギーが小さいので、釘の撃ち込まれる距離は小さくなります。
すなわち固い材料にくぎを打ち込む場合、釘に与えられる力は大きいのですが(おっしゃるように最大2倍)その分、打ち込みにくくなるわけです。

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