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2011年9月30日 (金)

霧雨と秋雨と土砂降り:雨の落下速度と空気抵抗

お彼岸が過ぎて、すっかり秋らしくなりました。

しとしとと降る秋雨の季節でもあり、台風と土砂降りの季節でもあります。

雨の風情は雨滴の粒の大きさに依るのだろうと思われます。

 

霧雨はとても小さい雨粒で、土砂降りは大粒の雨。

秋雨はどのくらいの大きさの雨粒でしょうか?

雨粒の大きさと落下の速さが、雨の風情を決めているように思われます。

そこで、雨粒の大きさと落下の速さと空気抵抗について考えて見ましょう。

 

20095月から6月にかけて、落下の法則と空気抵抗について書きました。

その時は、簡単のために、空気抵抗は速度に比例するとしましたが、実際には、物体の速さが遅い時のみに成り立つもので、物体が少し速くなると空気抵抗は速度の二乗に比例することが分かっています。

 

空気抵抗が速度に比例するか速度の二乗に比例するかは、レイノルズ数(レノルズ数:Reynolds number)の大きさで判断されますが、それは後で話す事にします。

 

最近台風によって、大雨が降り、災害をもたらしましたが、このときの雨は

大粒で、叩きつけるように降ります。

一方、シトシトと降る秋雨や、ほとんど空に漂っている霧雨もあります。

この違いは、雨粒の大きさによると思われるのですが、雨粒が大きいと

質量も大きくなり、落ちるスピードは大きくなります。

 

しかし、一方で空気抵抗も大きくなるので、それほどスピードが上がるようにも思えません。

 

ただ、雨粒にかかる重力は雨粒の体積に比例し、空気抵抗は雨粒の断面積に比例します。

重力は半径の三乗に比例し、空気抵抗は半径の二乗に比例するので、重力の方が勝って、

大きい雨粒の方がスピードが上がるとも思えます。

 

さて、本当のところはどうなのでしょうか?

 

20095月15日の記事「なぜ重いものほど速く落ちる?」でも話しましたが、

速度が上がると空気抵抗も大きくなり、最終的に空気抵抗力と重力が釣合って、

物体の落ちる速さは一定になります。

その時の速度を最終速度と呼びます。

 

重力は質量×重力の加速度なので、この釣り合いの関係は空気抵抗が速度に比例する場合は

(本当は、速度はベクトル量なので速さと言わなければならないのですが、ここでは言いやすい速度を使います)

 

質量×重力の加速度=比例定数1×速度

 

空気抵抗が速度の二乗に比例する場合は

 

質量×重力の加速度=比例定数2×速度

 

です。速度に比例する抵抗は空気の粘性抵抗で、空気の粘度に比例します。

一方、速度の二乗に比例する抵抗は空気の圧力抵抗(最近は慣性抵抗というようですが、ここでは圧力抵抗を使います)と呼ばれていて、空気の密度に比例します。

 

物体が流体内を動く時に、物体の後に渦が出来ない層流の状態では、抵抗は粘性抵抗になります。

しかし、スピードが大きくなって、物体の後の圧力が非常に下がり、

周りからの空気が流れ込んで物体の後に渦が出来始めると、

物体の周りの流れは乱流となって、圧力抵抗になります。

 

雨粒のように球状の物体の場合、粘性抵抗は

 

粘性抵抗力=6×π×粘度×半径×速度

 

となります。これは、粘度抵抗力が、粘度×流体の速度勾配×物体の表面積、から出てきます。

 

一方、圧力抵抗(慣性抵抗)は

 

圧力抵抗力=0.5×係数×空気の密度×π×半径2×速度2

 

となります。これは物体の前と後の圧力差が0.5×空気の密度×速度2に比例することから出てきます。

圧力差については2009515日の記事で、分子運動から推測しましたが、実際には、

この関係はベルヌイの法則から出てきます。しかし、いま、ここでは触れないことにします。

ここで、係数は0.5から1の間の数を取るので、ここでは簡単のために係数は1とします。

 

雨滴に対する、粘性抵抗力と圧力抵抗力の関係は、速度の小さいところでは粘性抵抗が優勢になり、速度が大きくなると圧力抵抗が優勢になります。

 

そこで、圧力抵抗力と粘性抵抗力の比、圧力抵抗力÷粘性抵抗力を出してみます。

この値が1より小さいところでは粘性抵抗が優勢で、1より大きいところでは圧力抵抗が大きいわけです。

 

そこで、上の式から

 

圧力抵抗力÷粘性抵抗力=(0.5×係数×空気の密度×π×半径2×速度2)÷(6×π×粘度×半径×速度)

 

です。係数は1として、整理すると

 

圧力抵抗力÷粘性抵抗力=空気の密度×半径×速度÷粘度÷12

 

となります。ここで、必要となる数値は空気の密度と空気の粘度です。

空気の密度は20℃の気温では、1.2 kg/m3です(理科年表(丸善)による)。

また、空気の粘度は20℃で1.8×105 Pasです。

ここで、圧力抵抗力÷粘性抵抗力=1のときの、雨滴の直径(=2×半径)と雨滴の落下速度の関係を出すと

 

雨滴の落下速度=3.6×104÷雨滴の直径

 

なので、直径1mmの時は、圧力抵抗と粘性抵抗が等しくなる速度は0.36 m/s(秒速36 cm)です。

 

粘性抵抗力による最終速度は前にも述べたように、質量×重力の加速度が粘性抵抗力に等しくなった時で、

 

質量×重力の加速度=6×π×粘度×半径×最終速度

 

となります。雨滴の場合、質量は、4×π×半径3×水の密度÷3なので、

水の密度、103 kg/m3と重力の加速度、9.8 m/s2、空気の粘度の値、1.8×105 Pasをいれると、最終速度は雨滴の直径に対して

 

最終速度=3×107×雨滴の直径2

 

となるので、直径1 mm=103 mの雨滴の場合、粘性抵抗による最終速度は30 m/s(秒速30 m:時速 108 km)になります。

この値は、圧力抵抗と粘性抵抗が等しくなる速度、秒速36 cm:時速1.3 kmに比べて非常に大きく、直径1mmの雨滴の場合、地上に来るまでには圧力抵抗が優勢になります。

 

一方、圧力抵抗による最終速度は

 

質量×重力の加速度=0.5×係数×空気の密度×π×半径2×最終速度2

 

から計算できます。係数は1と置くと、

 

最終速度=102×(直径の平方根)

 

になるので、直径1mmの雨滴の最終速度は3 m/s(秒速3 m=時速11 km)です。

Photo

上のグラフは、圧力抵抗と粘性抵抗が等しくなる速度と粒径の関係を濃紺の曲線、粘性抵抗による最終速度と粒径の関係をピンクの線、圧力抵抗による最終速度と粒径の関係を黄色の線で表してあります。

 

 

粒径が大きくなると、小さい速度でも圧力抵抗が優勢になるのに対して、粒径が小さいと、かなり大きい速度でも粘性抵抗が優勢です。

例えば、直径2mmの雨滴では、秒速18cmで、直径3mmでは秒速12cmで、圧力抵抗が優勢になります。一方、直径100μmの雨滴では、秒速3.6mまで、粘性抵抗が優勢です。

 

上のグラフから、最終速度が粘性抵抗で決まるのは、直径230μm0.23 mm)までで、それ以上大きい雨滴の最終速度は圧力抵抗で決まります。

 

非常に小さい雨滴は、最終速度も小さく、上昇気流や風の飛ばされて、雲になったり、霧になったりします。

雨滴の直径が10μmの場合、最終速度は秒速3 mm40μmで、秒速5 cmの最終速度なので、少し風があると、舞い上がって、霧になります。風が無ければ霧雨になります。

直径が0.1 mm100μm)になると、最終速度も秒速30 cmとなり、しとしとと降る秋雨です。

 

直径が0.2 mm以上になると、最終速度の秒速が1.2 m以上となり、本格的な雨になります。

 

直径が1 mmを越すと、落下の最終速度は、秒速3 m以上になり、土砂降り的になってきます。直径3 mmでは、秒速5.5 m(時速20km)となって、叩きつけるような雨になります。

ところで、読者の方からの指摘があり、雨滴は、大きくなると空気の圧力で扁平になるようです。(前に流線型になると書いたのは誤りです)

http://tenbou.nies.go.jp/science/video/files/03/05.pdf

また、直径3mmの雨滴は弱い雨。直径5mmの時は、強い雨で、直径8mmで非常に強い雨になるそうです。

ですから、直径3mmの雨滴の最終速度が時速20km程度では、まだ弱い雨(普通の雨)ということになります。

直径5mmの雨滴になると落下速度は秒速7m(時速25km)です。速度的には3mmの場合とそれほど違いはないのですが、直径が大きいために強い雨と感じるようです。

また直径8mmの雨滴では、落下速度は秒速9m(時速32km)で、土砂降りと感じるのは、雨粒の大きさによるのかもしれません。

 

ところで、最初の方で、レノルズ数について少し述べました。圧力抵抗と粘性抵抗の比は

 

圧力抵抗力÷粘性抵抗力=空気の密度×半径×速度÷粘度÷12

 

でした。レノルズは気体の密度と物体の半径と速度を粘度で割った無次元量、すなわちレノルズ数が等しい場合には、流体中の物体の力学的な状態が相似になるという、レノルズの相似法則を示しました。

球体の場合のレノルズ数は

 

レノルズ数=流体の密度×物体の半径×物体の速度÷流体の粘度

 

です。これは、圧力抵抗力と粘性抵抗力の比の値の12倍に等しいことが分かります。

すなわち、レノルズ数は、流れの中の物体の力学的状態を示す量で、この値が大きいと圧力抵抗が優勢になり、乱流の状態になるわけです。

 

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コメント

霧雨と秋雨と土砂降り:雨の落下速度と空気抵抗について
仕事の参考になりました。

建築関係不具合の改善に取り組んでいます。
雨の落下速度は解りましたが、8mm球径で9m/s
樋の中を固まりで流れる水、豪雨時の縦樋内の地上での落下流速を知りたいのですが、
縦樋の落下水が集中し、横引き配管の1m/s前後流速、水量が集中して浸水します。
屋上は階数により、変わりますので、縦樋の1階部分での流速の計算方法はどのように考えたらよいのでしょうか?
満水状態になると樋内空気抵抗は、先端部分のみと成る様に考えますが・・・・・お教え願えませんでしょうか?
宜しくお願いいたします。

中野さま

コメントありがとうございます。
縦樋中の流速は、樋の壁と水の間の粘性抵抗が無視できず、むしろこちらの抵抗が大きいと思います。さらにスピードが上がると乱流になり、流体力学的にかなり難しい問題になりそうです。少し考えてみたいと思いますので、少しお待ちいただければと思います。

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