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2011年6月28日 (火)

夏目漱石と物理学から:雲について

再び、201175日の工学院大学オープンカレッジ「夏目漱石と物理学」で話す話題から、一部を紹介しましょう。

 

三四郎は野々宮宗八と会った後、しばらく池の畔で、座り込んでいると、野々宮君が来る。

 

=======「三四郎」(青空文庫)から======

三四郎は花から目を放した。見ると野々宮君が石橋の向こうに長く立っている。

「君まだいたんですか」と言う。三四郎は答をするまえに、立ってのそのそ歩いて行った。石橋の上まで来て、

「ええ」と言った。なんとなくまが抜けている。けれども野々宮君は、少しも驚かない。

「涼しいですか」と聞いた。三四郎はまた、

「ええ」と言った。

 

===中略===

 

 青い空の静まり返った、上皮《うわかわ》に白い薄雲が刷毛先《はけさき》でかき払ったあとのように、筋《すじ》かいに長く浮いている。

「あれを知ってますか」と言う。三四郎は仰いで半透明の雲を見た。

「あれは、みんな雪の粉《こ》ですよ。こうやって下から見ると、ちっとも動いていない。しかしあれで地上に起こる颶風《ぐふう》以上の速力で動いているんですよ。――君ラスキンを読みましたか」

颶風:熱帯地方に発生する暴風の総称。サイクロン・ハリケーンなど。台風。大風。(広辞林)

 

野々宮君のこの説明は、モデルとなった寺田寅彦が地球物理学を専門としていたことと関係があります。

 

白い薄雲は、上空の非常に高いところにあるため、気温が低く、上昇した水蒸気は、上空の空気の流れによって、密度が激しく変化します。

 

水蒸気の密度が高くなると、水蒸気は凍って、小さな氷の粒になります。

しかし、颶風のように、激しく動く空気は、水蒸気の密度の低い状態も作ります。

その時に、氷の粒が非常に小さいと、蒸発して、なくなってしまいます。

 

雲の中では、このように水蒸気の密度の高い状態と低い状態があちこちに出来て、

雲の中の氷の粒は生まれたり消えたりしているのです。

 

すなわち、雲は、上空の空気の激しい動きによる、水蒸気の密度の揺らぎによって出来た氷の粒で、静に見える様子でも、実際には激しく動き、生まれたり消えたりしているのです。

 

雲の色が白く見えるので、氷の粒の大きさは1μm以上であることが分かります。

2009915日の記事:「夕陽が赤いわけ、秋の空が高いわけ、そして白い雲の理由」を参照)

 

水蒸気の密度が低く、氷の粒が小さい場合は、空気の抵抗で、上昇気流に巻き上げられて、

上空に留まり、生まれたり消えたりを繰り返しますが、水蒸気の密度が高くなると、

氷の粒は大きく成長してゆきます。

 

水蒸気の密度がそれほど高くなければ、氷の粒の大きさはある大きさで成長を止めて、

上昇気流の中で激しく動きながら、上空に留まり、地上には落ちて来ません。

 

あるいは、落ち始めても、途中で蒸発してしまう場合もあります。

 

水蒸気の密度が高く、氷の粒が成長して大きくなり、上昇気流も弱いと、落ちてきます。

 

地上の温度が氷点下であれば、雪として落ちてくるのです。

 

雪の結晶の形は、上空での氷の粒の成長過程を表していて、上空の温度が粒の小さい粉雪となり、温度が高いと、針状に伸びた美しい雪の結晶になります。

 

この雪の結晶の形は上空の温度や水蒸気の密度と密接に関係していて、その情報を地上に伝えています。

 

そのことから、中谷宇吉郎博士は雪を「天からの手紙」と表現しました。

 

 

春や夏に、上空の水蒸気の密度が上がり、そこに、非常に冷たい空気が流れ込むと、水蒸気は急激に冷やされ、大きく成長して、地上に落下します。

この場合は、成長する条件が氷点より少し低い温度で、非常に大きい氷の粒が成長します。

その結果、雹となって、地上に落ちてきます。

 

直径1~2cmぐらいの雹の場合、地上では時速70kmぐらいの速さになり、非常に危険です。

 

春や夏には、気温の高い低空で雲が出来ます。

気温が高いと水蒸気は氷の粒にはならずに水滴になります。

水蒸気の密度が高ければ、水滴は成長して、雨として落ち始めます。

雲の中では、次から次へと水滴が生まれて成長し、厚い雨雲が出来ます。

雨雲が黒いのは、太陽の光を通さないほど、大きい水滴が重なり合っているからなのです。

 

 

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