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2010年7月28日 (水)

結晶の形と表面エネルギー2:自然は美しい形を作る

 

昨日の記事では、角のかけた3角形の2次元結晶がシリコンの基板上にできることを見せました。もう一度走査トンネル顕微鏡の写真をお見せしましょう。

 

Si111island

 

この表面では、走査トンネル顕微鏡像(STM像)で分かるように、基板の原子(白い点が原子です)が3角形状(あるいは6角形状)に並んでいるので、3角形の2次元結晶が基板の上にできることは一応納得できます。

しかし、基板の原子の配列を良く見ると、むしろ6角形なので、上にできる結晶も6角形の方が自然な気もします。

実際、角の取れた3角形よりは、6角形と思ったほうが良さそうです。

 

この6角形の辺の長さの違いは、2次元結晶の縁の張力の違いによるのです。

この張力の違いは、2次元結晶のシリコン原子と基板のシリコン原子の間の結合の違いによっています。

これは、シリコン原子の結合の腕が下の図のように4つの方向に均等に出ているテトラポットの形をしているためです。

Photo

 

 

 

シリコンの結合の腕の先をつなぐと図の赤の点線のように3角形の面で囲まれた正4面体が出来ます。

上の写真の表面はこのテトラポットの底辺の3角形と平行になっているので、

6角形になるよりも3角形になることを好むのです。

 

三角形を並べて2次元結晶を作ってみると下の図のようになります。

左は3角形になるように並べ、右は6角形になるように並べて見ました。

 

Si111

 

左の3角形の2次元結晶の縁は結合の腕がつながって、辺がスムーズになっています。

それに対して、右の6角形の2次元結晶では、尖った先が出ているぎざぎざの辺があります。

このぎざぎざの縁のエネルギーはスムーズな縁のエネルギーよりも大きいとすると、

この部分はなるべく短くなるか、あるいは、左の結晶のように3角形になろうとします。

 

一方、尖った部分では、原子は不安定で取れやすくなるので、左の3角形の角の原子は取れたほうが、結晶全体のエネルギーを下げることになります。

このようなエネルギーの損得で、結晶の形は決まってきます。

 

それでは2次元結晶の縁の長さ(ステップの長さ:縁は1原子層の段差なので、ステップと言います)は、ステップエネルギー(ステップ張力でも良いです)との関係はどのようにして決まるのでしょうか?

ここには非常に簡単な関係があります。

これには、かなり難しい数学を使うので、ここでは結果だけを示すことにします。

 

Photo_2

 

まず、上の図のような6角形の2次元結晶について考えます。

上の図では、Aの種類のステップとBの種類のステップがあります。

AのステップエネルギーはBのステップエネルギーよりも小さいとしています。

 

この結晶の中心からAのステップとBのステップに垂線(点線)を降ろします。

このときに、AのステップエネルギーとAの垂線の長さの比が、BのステップエネルギーとBの垂線の比と等しいのです。

 

すなわち、

 

Aのステップエネルギー÷Aの垂線の長さ=Bのステップエネルギー÷Bの垂線の長さ=一定

 

という簡単な関係です。

この関係は、ウルフの定理と呼ばれています。

 

この結晶の縁の全エネルギー、すなわちステップの全エネルギーは、

ステップの長さ×ステップエネルギーになります。

 

2次元結晶が平衡状態で安定な形になるには、各ステップの全エネルギーの和が最小にならなければなりません。

 

それを計算した結果がウルフの定理になっています。

 

以上は2次元で考えましたが、3次元結晶でも、結晶の中心から結晶の面に降ろした垂線の長さとその面の表面エネルギーの比が一定になります。

 

ところで、この結果は数学的な結果で、エネルギー的には正しいのですが、よく考えるとちょっと腑に落ちないところがあります。

 

==============腑に落ちないこと===========

ここからは、私見なのですが、2次元結晶が平衡状態で存在するならば、各ステップの全エネルギーは等しくなければならないように思います。

そうでなければ、全エネルギーの高いステップの長さを小さくして、各ステップのエネルギーを等しくするように原子が移動すると思われます。

そうだとして、ウルフの定理も満足するならば、上の図の青の三角形(A)の面積と赤の三角形(B)の面積が等しくなければならないことになります。

しかしこの関係を満足するには、赤も青も正三角形にならなければならないので、ウルフの定理と矛盾します。

 

結局、結晶表面の各結晶面のエネルギーはお互いに等しくなくても良いのかもしれない。

私にとっては、これはまだナゾです。

 

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コメント

これって、液体の表面張力で丸くなるのとなんか関係ありますか?

Covaさん、

コメントありがとうございます。
はい、大いに関係があります。
結晶は、体積を変えずに表面のエネルギー(正確には自由エネルギー)を最小にするように、固有の形をとります。これがウルフの定理で得られた結果です。

液体の場合、結晶ではないので、どの面も同じ表面エネルギーを持っているため、どの面に対しても中心から同じ距離にならなければなりません。このためには球形になることが一番なのですが、言い方を変えると、体積を変えずに表面のエネルギーを最小、すなわち表面積を最小にするために球形になります。

もし、2次元の液体があれば、面積を変えずに、縁のエネルギー(ステップのエネルギー)を最小にするのに、縁の長さ(ステップの長さ)を最小にする、すなわち円形になれば良いわけです。

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