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2010年7月27日 (火)

結晶の形と表面エネルギー1:自然は美しく単純

結晶と言えば、水晶や氷(雪)の結晶を思い出します。

 

雪の結晶のように複雑な形の結晶は、結晶が出来る時の環境によって大きく変わり、

結晶の表面の分子の移動(拡散)や過飽和状態(本来なら凝縮する気体の状態が凝縮せずに残っている状態)によって、出来ると思われています。

雪の結晶のような複雑で針状の結晶は、平衡状態ではない、非平衡状態で起きると思われており、

このような非平衡状態の物理は、とても難しい問題となっています。

 

たとえば、結晶が最初、平らな平面と尖った角からできているとすると、

平らな面では、気体分子は移動するだけで、停止せず、尖った角に来て、

そこがつかまり易いので、分子が止まって、くっつくと言うことが考えられます。

 

十分に時間が経過した平衡状態では、この状態はエネルギー的に損なので、

尖ったところから分子は流れ出して、平面の多い結晶になります。

しかし、非平衡な状態では、急速に成長が進んで、不安定な状態が凍結されて枝の多い、

雪の結晶のような結晶ができるのです。

 

この問題は、最近ではかなり解明されてきてはいますが、まだまだ分からないことが多いのです。

 

ここでは、このような難しい問題ではなく、考えやすい平衡状態での結晶の成長について考えてゆきたいと思います。

 

雪の結晶でも、6角形の結晶が見られます。

これは結晶の成長にゆっくり時間を掛けた結果、すなわち比較的平衡状態に近い状態で成長したと思われています。

 

雪の結晶の形状は、上空の水蒸気の状態を表しており、その状態によって変わるのです。

これが、雪の結晶は空からの手紙と言われている理由なのです。

 

平衡状態では、エネルギー的に最も安定な状態で成長が進むので、結晶の体積が同じなら、表面エネルギーの低い面が広く、高い面が狭く出る方がエネルギー的に得になります。

 

すなわち、結晶の持つエネルギーは、体積のエネルギーと表面のエネルギーの和になるので、

体積が等しければ、(あるいは固体や液体では、外から分子を加えたり、分子を取り除いたりしなければ、体積は変化しないので)表面エネルギーを最も小さくする形状を取るのです。

 

液体の場合は、表面積を最も小さくすることで、表面エネルギーが最小になります。

体積一定で、表面積が最小の形状は球形なので、液体は球形をとりやすいのです。

 

結晶は原子の配列が規則正しいので、切り出した面によって、表面エネルギーは異なります。

表面エネルギーの単純な計算法は、その表面の原子密度と、切り出したときに切断される結合の数で表されます。

 

すなわち、表面エネルギーは表面原子密度×切断される結合の数に比例します。

ちゃんと書くと

 

表面エネルギー=表面原子密度×(切断される結合の数÷全結合の数)×結晶内部の全結合エネルギー

 

となります。

 

しかし、これは理想的な場合で、実際は、結晶を切り出したときに、切断された結合は、そのままでは不安定なので、隣の原子と再結合して、表面だけ、内部とは違った結合状態が現れます。

いわゆる表面再構成が起るわけです。

このために、通常は表面の原子配列と内部の原子配列は異なったものになります。

そのため、上の関係式と少し違ってくるかもしれませんが、それほど差はないと考えられています。

 

Fineparticle3

マグネシウムの微結晶の走査電子顕微鏡写真:

R.Uyeda: Crystallography of Metal Smoke Particles, Morphology of Crystals, ed. I. Sunagawa, Terra Scientific Publishing Company,

Tokyo

1987 から転載)

 

上の図はマグネシウムを希ガス(ヘリウムガス)の中で蒸発させて作った微粒子で、出来た時の環境でこのように違っています。

一番左は、融けた液滴状態が急激に冷えたため、球形が残り、しかし、結晶であることを示すように、一部に結晶面が出ています。

一番左は、結晶が成長した後、表面エネルギーが最小になる条件までゆっくりと冷えたものと思われます。

真ん中はその中間の環境になっていると思われます。

この差は、微粒子が出来る時の煙の中の位置の違いによっていて、球状になる結晶は煙の中心付近で、上昇気流が大きく、急激に冷やされたものであり、左は、煙の外側をゆっくりと登り、ゆっくりと冷やされたと考えられます。

 

2次元の結晶についても、美しい形が得られます。

Si111island_2 Si111

 

上の写真はシリコンの表面の上に、1原子層だけシリコンの2次元結晶を付着させた時に見られた構造の走査トンネル顕微鏡像です。

この図の矢印の長さは20nm(ナノメートル)なので、この2次元結晶は差渡しが30ナノメートル程度です。

この表面は、切断して、原子配列が変化しなければ最も原子密度の大きい表面ですが、実際には、表面再構成によって、このように穴が開いた構造になっています。

 

右の図は、左の図の基板の構造を拡大した走査トンネル顕微鏡像で、原子一つ一つが見えており、暗いところは穴になっています。

 

左の図の2次元結晶も、穴の開いた構造になっていますが、よく見ると穴の間隔が下の基板の間隔と異なることが分かります。

このように、表面の原子配列は、環境によって異なったものになるのです。

 

この2次元結晶は3角形の角がかけた構造になっています。

2次元結晶は、基板から1原子層高くなっており、この縁には段差(ステップ)があります。

このステップのエネルギーは、1次元の張力と同じであり、長い縁は張力が小さく、短い縁は張力が大きいために、エネルギー的に、ステップのエネルギーが小さい部分が多く出ているのです。(2010年7月19日の記事参照)

 

2次元結晶の縁の長さは縁のエネルギー(張力)で決まるのですが、その関係は非常に簡単です。

 

すなわち、縁のエネルギーは2次元結晶の中心(3角形の中心)から各辺に降ろした垂線の長さに半比例しているということです。

 

このことは、また次に話しますが、ウルフ(Wulff)の定理と呼ばれています。

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コメント

雪の結晶の枝分かれと、放電の枝分かれと、何か相関関係ってありますか?

Covaさん

コメントありがとうございます。
これは相関はないと思います。
雪の結晶の枝分かれは、結晶が成長する時に、分子の並びがでこぼこした不安定な面ができます。その面はフラットな面に比べて、分子が吸着しやすく、どんどん成長します。
その成長途中で、フラットな面の一部にでこぼこ面ができて、その方向に枝分かれします。
これは、フラットな結晶表面に到達した気体分子が結晶の表面を移動して先端まで行ってから、成長するのですが、その移動が、先端の成長に追いつかなくなり、途中で分子の移動が止まって、でこぼこ面が出来るためです。
先端の成長には、結晶の先端近くに到達した分子が寄与しています。
形が整っているのは、分子の移動(拡散と言っています)の速度が温度や気体分子密度などの環境が決まっているためです。

一方、放電の枝分かれは、気体中での電荷の移動において、電荷が気体分子と衝突しながら電極間を移動するためで、衝突によって新しく電荷が生成されたり、電荷が曲げられたり、あるいは消滅したりして、枝分かれが起きています。

ということで、枝分かれの出来方は、粒子の移動と衝突と言うところでは似ていますが、その機構は全く違うものです。

機構は全く違うものであっても、枝分かれの出来方は、粒子の移動と衝突と言うところでは似ていますか。

ここ、面白いですね。

Covaさん

そうですね。また、枝分かれが起きるのは、環境に依存し、不安定な現象と言う意味でも似ていると言えますね。

むしろ、樹木の枝分かれのほうが、結晶の枝分かれに機構的にも似ているかもしれません。(成長と言う意味でも)

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