料理と鍋:熱伝導と熱容量
料理は、多くの場合、加熱するので、鍋やフライパンを使う。
食材の加熱には、最近では電子レンジを使ったりするが、多くは、コンロを使います。
コンロの場合は、IHコンロを除いて、外から加熱して、鍋を通して熱を食材に与えます。
ですから、鍋などの容器の熱伝導は重要になってきます。
熱の伝わりやすさは、熱伝導度の大きさで決まってきます。
熱伝導度が大きいと、熱は速く伝わります。
熱が速く伝わる物質としては、金属があります。
金属は、他の物質(金属以外)に比べて、圧倒的に熱伝導度が大きいのです。
これは、金属が、電気伝導に寄与する、自由な電子(伝導電子)をたくさん持っている(原子1個に対して1個)ためです。
熱の伝導は、物質の中の原子(分子でも良い)の熱振動が伝播することが主ですが、
そのほかに、伝導電子が熱エネルギーをもらって、激しく運動し、熱のエネルギーを金属内の伝導電子に次々に伝えていって伝播させます。
電子は軽いので、それに比べて非常に重い原子の振動で熱が伝播するよりも遥かに速く伝わるのです。
上図は鉄、アルミニウム、金、銅、銀の熱伝導度と電気伝導度の相関を0℃、100℃、300℃で取ったものです。(熱伝導度、電気伝導度(電気抵抗率の逆数)は理科年表による)
これから、各温度で、熱伝導度と電気伝導度はほとんど比例していることが分かります。
しかし、この関係を直線で結んで、縦軸の切片の値を見ると、0℃と100℃では10W/m・K、300℃で13W/m・Kであることが分かります。この分は原子振動によるものです。
熱伝導度と電気伝導度が比例していると言うことは、伝導電子が熱伝導に大きく関わっていることに他ならないのです。
さて、金属は圧倒的に熱伝導度が大きいことが分かりました。
ですから、古来、鍋に金属が使われたのは、正しい選択だったのです。
というか、経験的に熱伝導が大きいことが分かっていたのです。
さらに、鍋に加工しやすいと言うこともあったと思います。
熱伝導度が最も大きいのは、銀です。
したがって、銀器を使えば、最も効率よく加熱できますが、銀は高価なため、ヨーロッパなどでは、もっぱら銀の次に伝導度の高い、銅が使われました。
中国や日本では、鉄の容器が多く使われていました。
急激に加熱するのでなければ、熱伝導度は少し小さくても、安価な鉄が便利かもしれません。
料理には熱伝導度だけではなく、他の要素、すなわち熱容量も必要です。
熱容量とは、熱を溜め込む量を表します。
通常は、熱容量は単位質量あたりの熱容量(比熱)に質量を掛けます。
しかし、単位体積あたりの熱容量(比熱×密度)は料理を考える上では便利です。
熱容量はこれに体積を掛けます。最終的にはどちらも同じ量なのですが、
容器の材料について考える時には単位体積あたりの熱容量も捨てがたいのです。
紙などは、どちらでもほとんど同じで、1.2 J/K・gと1.2 J/K・cm3
また、紙の熱伝導度は非常に小さく、0.06W/m・Kです。
これにたいして、熱伝導度が1.1W/m・Kのパイレックスガラスは質量あたりの熱容量が0.7J/K・gと小さいのに、体積当たりでは、1.6J/K・cm3と大きい値です。
また、熱伝導度が0.16W/m・Kと非常に小さいために、お椀などに使われる木材は、
質量当たりの熱容量は1.3J/K・gと大きいのに体積当たりでは、0.65J/K・cm3と小さく、
このために、厚い煮物や、汁を入れても、すぐにお椀の面(体積的には小さい)が暖まり、
しかも熱伝導度が小さいので、冷めにくいのです。
熱容量の小さい容器の場合、加熱によって、容器が暖まりやすいと同時に冷めやすいので、
すぐに加熱したい場合にはこのような容器が便利です。
薄いアルミニウムの鍋は、熱容量が小さく、熱伝導度は大きいので、すぐに湯を沸かしたいときなどに便利です。
熱容量の大きい容器は暖まりにくく、冷めにくい性質があります。
容器の体積(容積ではなくて容器そのものの材料の体積)が同じ場合、金属の容器は陶器やパイレックスの容器に比べて熱容量は2倍から3倍大きく、熱伝導率は50倍から200倍大きいと言う性質があります。
この場合、容器に入れたお湯などが、金属容器と陶器とで、どちらが冷めやすいかは、部屋の温度との関係もありますが、容器の冷める速さと、中のお湯が容器の熱伝導で冷める速さの割合で決まってきて、簡単ではありません。
しかし、通常は熱伝導で決まると考えると、陶器のほうが保温性はあると思えます。
分厚い鉄板のフライパンや鍋は、熱容量が大きく、加熱による温度の上昇には時間がかかりますが、熱した後、材料を入れても温度が下がらないので、すぐに熱したい場合や、表面だけを焼きたい場合に好都合です。
また、天ぷらなどの揚げ物の場合も、熱容量の大きい鉄なべを使うことで、ある程度油の量が少なくても、油の温度が下がりにくく、効果的です。
同じことは、スパゲティなどの麺類をゆでる時も、湯の量を多くすることで、熱容量を大きくしますが、厚いステンレス鍋やアルミニウム鍋を使うことで、湯の量をある程度は少なく出来ます。
お米の炊き方についても、土鍋のように熱伝導率が金属の100分の1から300分の1と小さく、熱容量の大きい容器は、火加減をあまり変えなくても、最初はゆっくり温度が上がり、沸騰した後は、火をかなり弱めると、加熱はゆっくりと下がるので、上手く炊くことが出来ます。
また昔使われていた、厚い鉄のお釜でも、同じように、沸騰したあとは、火を弱めることで、お米が上手く炊けたのです。
ドイツなど、ヨーロッパでは、分厚い鉄板で覆われた電気コンロが使われています。
これを使って、アルミの平底の鍋で、お米が結構簡単に炊けます。
やはり、コンロの熱容量の大きさを使うわけで、最初にパワーを最大にして、炊き始め、沸騰した時点で、パワーを切ると、鉄板の熱がゆっくりと下がるために、上手に炊けます。
材料を後から補充する鍋料理などは、熱容量の大きい容器を使うことで、食材の補充による温度の低下を最小限にしているわけです。
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古来、土鍋も愛用されてきましたけど…。
投稿: cova | 2010年7月29日 (木) 18時58分
Covaさん
はい、土鍋やお釜など、古来使われてきたものは、料理しやすいこともあって、現代まで残っていると思います。
鍋物に、土鍋が使われているのは、熱容量が大きく、しかも熱伝導が悪く、冷めにくいことが、煮込みに適しているのではないかと思っています。
投稿: 一宮 | 2010年7月30日 (金) 00時11分
こんにちは
下のなべで熱容量が高い順番を教えてください。
土鍋、ステンレス鍋、アルマイト鍋、中華鍋、ホーロー鍋
投稿: たちま | 2012年5月17日 (木) 17時47分
たちまさん
コメントありがとうございます。
ご質問はかなり難しいです。
鍋の熱容量は大きさと質量(重さ)によるので一概には言えません。
しかし、通常の鍋と考えると、アルマイト鍋が最も熱容量が小さく、土鍋が最も大きいと思えます。ステンレス鍋、中華鍋、ホーロー鍋はほとんど差がないと思えます。ステンレス鍋やホーロー鍋で厚い鍋は熱容量が大きく、土鍋よりも大きい場合があります。大まかには重い鍋が熱容量は大きいです。
投稿: 一宮 | 2012年5月18日 (金) 21時54分
初めまして、ブログの内容非常に興味深く拝見しました。
体積当たりの熱容量について調べて本ブログにたどり着きました。お椀の例等非常に分かりやすかったです。
一般的に熱容量と言うと質量当たりの値を指すと思うのですが、
体積当たりの熱容量というのが調べてもなかなか出てきません。
本ブログ内お椀の「体積当たりでは、0.65J/K・cm3」という値はどうやって出されたのでしょうか。計算式、もしくは参考文献等あればご教示いただけないでしょうか。
投稿: 一般技術者 | 2018年3月 1日 (木) 11時12分