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2010年7月21日 (水)

濡れることと結晶成長:先端技術

 

現在、あらゆる場所、器具・装置で使われているICチップは、結晶を成長させて作られています。

これらの、いわゆる半導体デバイスは、基板の結晶にシリコン(珪素)が使われています。

半導体デバイスの基板にシリコンを使うのは、最も完全な結晶を作製できることが大きな理由となっています。

現在、ICチップが非常に安価に出来る一つの理由として、直径の非常に大きいシリコンの完全結晶の作製が可能となったことなのです。

これによって、直径の大きいシリコンウエハが可能になり、一つのウエハの上に、IC、すなわち積層回路を、無数に作製できる様になりました。

 

ICの作製には、基板結晶上に、種々の物質を堆積・成長させるとともに、エッチングにより不要な部分を削り取り、さらに新しい物質の堆積・成長・エッチングを繰り返して、微小な回路を組み上げるわけです。

 

この場合に、種々の物質表面に異種の物質を堆積させ、場合によっては結晶を成長させる必要があります。

 

このときに、設計どおりに回路を作製するには、表面で、堆積物質が十分に濡れる必要があります。

一方で、あまり濡れやすいと、基板と堆積物質の間で、原子・分子が交互に拡散して混ざり合う可能性もあり、それによって、設計性能が出ない場合も出てくるので、基板物質と堆積物質の性質を選ぶことも重要になってきます。

 

半導体デバイスの中で、半導体レーザーやLEDの作製には、量子井戸構造が必要になってきます。

これは、結晶と結晶の間に数原子層から数十原子層の異種の結晶をサンドイッチすることで、異なるエネルギー状態を結晶の間に作って、発光させるもので、挟まれる結晶の質によって、発光性能は変わってきます。

 

このような量子井戸の作製において、結晶成長と濡れは大きな問題となります。

例えばA結晶の基板の上にB結晶を成長させて、更にその上にA結晶を成長させることを考えます。

 

結晶表面の上に方位をそろえて結晶を成長させることをエピタキシャル成長と言います。

 

A結晶表面にB結晶をエピタキシャル成長させる場合、原子層1層ずつ成長させるには、B結晶が十分にA結晶表面で濡れる必要があります。

そのためには、B結晶の表面エネルギーはA結晶の表面エネルギーよりも小さい必要があります。

界面エネルギーが低くて、表面エネルギーが小さいB結晶を見つけることはそれほど大変ではありません。

問題は、B結晶が成長した表面上に、すなわちB結晶の表面上にA結晶を成長させる場合です。

この場合、界面エネルギーが負でない限り、A結晶はB結晶上で完全には濡れません。

そうなると、A結晶はB結晶上で、原子層1層ずつの層状成長をしませんので、A結晶の厚さを原子レベルで制御することが難しくなってきます。

 

量子井戸が1個だけの構造であれば、A結晶をそのまま堆積させればいいので、問題はないのですが、量子井戸が連なった構造の場合は、ABの結晶を交互に積み上げるので、それらの結晶の厚さを制御する必要が出てくるのです。

 

A結晶とB結晶を交互に積み重ねる、多層膜、あるいは人工超格子構造と呼ばれる構造を作るには、どちらの表面上でも十分に濡れる成長をさせる必要があります。

 

この一つの方法として考えられるのは、ABの結晶表面の表面エネルギーをほとんど等しくさせる方法です。界面エネルギーがゼロである場合にはこの方法がかなり効果的です。

 

これには、AB結晶と化合物を作らないが、表面エネルギーを低下させる原子あるいは分子を表面に僅かに吸着させるやり方です。

これをC原子とします。

 

A結晶表面にC原子をばら撒いて、その上にBを堆積します。

BCは化合しないのと、ABの間に入り込むとエネルギー的に不安定になるので、C原子はB結晶の表面に押し出されます(いわゆる析出)。

これには、ABの間の結合力よりもBCACの間の結合力が小さい必要があります。

C原子が、AB結晶表面に僅かに存在するだけで、表面エネルギーが低下すればいいわけです。

 

このC原子は表面(界面)活性剤の役割をしています。

 

もう一つ、界面エネルギーが小さいことも要求されます。

そのためには、ABの結晶における、表面での原子間距離がほとんど等しいこと必要です。

原子間距離が異なると、界面での歪が大きくなり、それによって、界面エネルギーが増加するためです。

 

この問題は、砒化ガリウム(ガリウム砒素:GaAs)にインジウムやアルミニウムが混じった、化合物半導体の混晶のように、化合物半導体とその混晶によって、可能となっています。

 

このように、原子レベルでの多層膜の作製には、表面エネルギーと界面エネルギーの低下が必要で、そのために、半導体メーカーは、多くのノウハウを蓄積しているのです。

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