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2010年6月 8日 (火)

観測と光の圧力:不確定性原理への導入

 

観測というのは、対象となる物体(あるいは空間)を目で見たり、鼻でにおいをかいだり、耳で聴いたり、手で触ったり、舌で味を感じたりして、その物体(あるいは空間)の性質や、位置や、速度や、質量を調べることを言います。

 

目で見るということは、物体に光を当てて、その反射光が目に入るので、見ることが出来ます。

あるいは、物体から光が放出されて、それを見ることも出来ます。

この反射光や放出光が目に入ってくる方向から、位置を知る事が出来、その位置の時間変化から速度を知る事が出来ます。

 

光を当てて観測する場合、人間のサイズの世界では、物体の位置や速度は変化しないと考えてもいいので、位置や速度は正確に測定できます。

 

しかし、非常に軽い物質の場合、光を当てると、物体は動いてしまうことがあります。

 

夏目漱石の『三四郎』に、野々宮が、地下の薄暗い実験室で光の圧力を測定している場面があります。

 

=======三四郎からの抜粋======

 部屋の中を見回すとまん中に大きな長い樫のテーブルが置いてある。その上にはなんだかこみいった、太い針金だらけの器械が乗っかって、そのわきに大きなガラスの鉢に水が入れてある。そのほかにやすりとナイフと襟飾りが一つ落ちている。最後に向こうのすみを見ると、三尺ぐらいの花崗石の台の上に、福神漬の缶ほどな複雑な器械が乗せてある。三四郎はこの缶の横っ腹にあいている二つの穴に目をつけた。穴が蟒蛇(うわばみ)の目玉のように光っている。野々宮君は笑いながら光るでしょうと言った。そうして、こういう説明をしてくれた。

「昼間のうちに、あんな準備(したく)をしておいて、夜になって、交通その他の活動が鈍くなるころに、この静かな暗い穴倉で、望遠鏡の中から、あの目玉のようなものをのぞくのです。そうして光線の圧力を試験する。今年の正月ごろからとりかかったが、装置がなかなかめんどうなのでまだ思うような結果が出てきません。夏は比較的こらえやすいが、寒夜になると、たいへんしのぎにくい。外套を着て襟巻をしても冷たくてやりきれない。……」

=======抜粋終り=======

 

この一文は、私が学生だった頃の物理の実験室の様子を彷彿とさせます。

尤も今でも、機械が新しくなっただけで、あまり変わらないかもしれない。

 

==閑話休題==

 

三四郎の頃から、既に、光に圧力があることはわかっていました。

圧力は、運動量(質量×速度)の変化に比例します。

 

光の反射による運動量の変化が物体に速度を与えて、物体の位置を変化させてしまいます。

 

光の運動量は

 

プランク定数÷波長

 

なので、通常の光の場合は、非常に小さく、日常、その圧力を感じることはありません。

 

これは、プランク定数が非常に小さい値、すなわち プランク定数=6.6×1034J·s だからです。

(注:10341の後に034個、すなわち10,000,000,000,000,000,000,000,000,000,000,000

一方、1034はその逆数、すなわち1034分の1なので、非常に小さい値になります。

また、Jはエネルギーの単位でジュール、sは時間の単位で秒です。エネルギーの単位については2009221日の記事、エネルギー(カロリー計算-1)を参照してください)

 

可視光の場合、光の波長は0.38μmから0.78μmなので、代表的な波長として0.66μm=6.6×107mを使って、運動量を計算してみましょう。

上の式で、運動量はプランク定数を波長で割り算をすることで6.6が消えて、1034÷107103471027

となります。単位をつけると、運動量は1027N·s と、非常に小さい値です。

(注:Nは力の単位でニュートン)

例えば、質量1kgの物体が秒速1mで動いている場合の運動量は1N·sなので、光子の数が1027個で、対応できる。

0.66μmの光子のエネルギーは、プランク定数×光速÷波長 (hc/λ) なので、

6.6×1034×3×108÷6.6×1073×1019J (注:光速は3×108m/s

になります。

Jにするには、約3.3×1018個の光子が必要になります。

 

W(ワット)の光の圧力は、1秒間に1Jの光子が1m2の面積に入ってくる量、約3.3×1018/s·m21027N·s運動量、にかければいいことになります。

 

結果は約3.3×109N/m2=約3.3×109Paの圧力になります。

 

地球の大気圏外に、1平方メートル当たり、1秒間に入ってくる太陽のエネルギーは1.37kJ、すなわち1.37kW/m2(1995年理科年表による)なので、この強烈な太陽光でも、約4.56×106Pa程度の、非常に小さい圧力でしかないのです。

(注:1.37kW1370Wなので、これを1Wに対する圧力、3.33×109Paにかけるとこの値になります。)

 

1気圧は約10Paなので、この圧力は、ほとんど無視できるほど小さく、通常の光が当たっても、目で見える程度の物体は、影響を受けないことになります。

ですから、量子物理学が出来る前の古典物理学では、このような問題は無視されてきました。


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