なぜ分子が出来るのか?
水素や酸素、窒素などは、原子でいるよりも2個の原子が結合した分子の状態になりやすい。
なぜ、原子が1個でいるよりも、分子になった方が安定なのでしょうか?
一方で、ヘリウムやネオンなどの不活性気体は原子1個の状態で存在します。
この違いはなぜなのでしょうか?
まずは、水素原子について考えて見ます。
水素原子は、1s軌道に1個の電子を持っています。(一つ前の記事『原子の構造-3』参照)
1s軌道は2個の電子が入れる席があるので、もう1個の電子がその席に入って、負(マイナス)のイオンになることも可能です。
(水素原子に電子が一つ増えるので、負のイオンになります。)
水素原子(水素原子Aとしましょう)にもう一つの水素原子(水素原子Bとします)が近づいてきたとしましょう。
水素の原子核である陽子の周りには1個の電子が球状に雲のように囲んでいます。
近づいてきた、水素原子Bと水素原子Aが接触すると、水素原子Bの電子は、何かの拍子に、水素原子Aの1s軌道の空いている席に入ってしまいます。
このとき、水素原子Aは負のイオンになり、一方電子を取られてしまった水素原子Bは陽子だけなので、正(プラス)のイオンになります。
正のイオンと負のイオンの間には強い引力が生じるので、水素原子(水素イオン)Bの陽子は水素原子(水素イオン)Aの中に入り込みます。
このとき、水素イオンBの1s軌道はがらがらに空いているので、水素イオンAの2個の電子のうちの1個が水素イオンBの1s軌道に入り込みます。
このとき、再び2個の水素原子に戻りそうなものです。
しかし、両方の原子核(陽子)は近づきすぎているので、両方の原子の1s軌道を電子は行ったりきたりします。
既にこのときには、電子の見分けがつかなくなっているうえ、1s軌道は同等なので、2個の電子は自由に両方の軌道を行き来することになります。
このために、水素原子AとBは分かれることが出来ずに分子になってしまうのです。
ヘリウム原子の場合は、1s軌道に電子が2個入っているので、1s軌道に空いている席はありません。
もう一個の電子が入ろうとすると2s軌道か2p軌道に入るしかないのです。
すなわち、レストランで1階の席はもう埋まってしまって、2階の席しかないという状態です。
ヘリウム原子AとBが接触して、たまたまヘリウム原子Aの2s軌道にBの電子が入ったとしましょう。
このとき、ヘリウム原子Aは負のイオンになり、Bは正のイオンになります。
正のヘリウムイオンBが負のヘリウムイオンAに入り込もうとすると、Bに残っている1s軌道の電子が邪魔をして、1s軌道の半径以上には入り込めません。
一方、ヘリウムイオンAの2s軌道に入った電子はエネルギー的に不安定なので、接触しているヘリウムイオンBの1s軌道に戻りたいと思います。
結局、ヘリウムイオンAの2s軌道の電子はBの1s軌道にすぐに戻ってしまいます。
このとき、二つのイオンの間の距離は、接触している原子間の距離と同じなので、原子間の結合は出来ずに、二つの原子は離れていってしまいます。
結局、ヘリウム原子2個で出来るヘリウム分子は出来ないのです。
では、水素原子にヘリウム原子が近づいたらどうでしょうか?
水素原子の1s軌道は席が一個空いているので、ヘリウム原子が接触すれば、2個の1s電子の1個が水素原子に移り、水素原子は負の水素イオンになり、ヘリウムは正のヘリウムイオンになります。
したがって、ヘリウムイオンは水素イオンの中に入り込もうとしますが、残った1s電子が邪魔になって、近づけません。
そのうちに、水素イオンの1s電子の1個は、ヘリウムの軌道にいた方が居心地が良いので、ヘリウムの方に移ってしまいます。
この場合も、二つのイオン間の距離は、接触している原子間距離と同じなので、結合は出来ずに、お互いに離れていってしまいます。
このようにヘリウムは他の原子との化学反応が起きないために、不活性元素と呼ばれています。
窒素分子や酸素分子も、水素分子と同じように考えられます。
窒素原子は2s軌道までは電子が詰まっていますが、2p軌道には3個の電子があります。
酸素原子は、2p軌道に4個の電子があります。
2p軌道には電子の席は6個あるので、どちらの原子も、2p軌道に、まだ席の空きがあります。
ですから、原子同士が接触すると電子のやり取りが起って、分子になるのです。
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「正のヘリウムイオンBが負のヘリウムイオンBに入り込もうとすると、Bに残っている1s軌道の電子が邪魔をして、1s軌道の半径以上には入り込めません」の
負のヘリウムイオンBはAの誤りでしょうか。
自分の理解がギリギリなので よくわかりません。
また 1s軌道の半径以上には入り込めない この様子がイメージできません。正イオンBの1s軌道ですよね。
よくわから何ので さらに教えていただければ助かります。
大変興味のある話で 何とか理解したいところです。
投稿: 槇野泰夫 | 2017年3月14日 (火) 18時17分
槇野泰夫さま
コメントありがとうございます。「負のヘリウムイオンB」はAの誤りです。早速記事は修正いたしました。
ご質問の、正イオンBの1s軌道が邪魔をしてAの1s軌道の半径より中に入り込めないという理由ですが、これはパウリに排他原理によるものです。Aの1s軌道には既に2個の電子が入っていて、この軌道にはそれ以上電子が入り込める場所がありません。Bには1s軌道に電子が残っているために、Bの1s軌道とAの1s軌道は重なることが出来ないのです。重なるためにはAの1s軌道に3個の電子がひることが出来るか、あるいはBの1s軌道にAの1s軌道の電子が移って、Bの1sに3個の電子が入らなければ重なることが出来ないのです。1sには上向きのスピンと下向きのスピンの電子2個しか入れませんので、1s電子が残っているBの1s軌道はAの1s軌道には近づくことが出来ないのです。
投稿: 一宮 | 2017年3月17日 (金) 23時25分
こんにちは。
高校で理科の教員をしているのですが、分からないところがあるので質問させて頂きます。
丁度、分子と共有結合の話をしているとき生徒から
「H原子だけで存在することはできるのか」
という質問を受けました。これに対する解答について悩んでいます。
H原子だけで存在するのは難しいと思っています。存在できたとしても、水素原子だけでは、そんなに長い時間存在できないと思っているのですが、どのぐらい存在しにくいものなのかを教えて頂けると幸いです。
よろしくお願いします。
投稿: 小倉 | 2018年9月20日 (木) 15時51分
小倉さま
コメントありがとうございます。水素原子だけで、どのくらいの時間存在し続けることが出来るかという質問と考えて良いでしょうか。
例えば、ヘリウムガス中に水素原子を注入したとします。これは実験的に可能です。この時、水素原子の密度がヘリウム原子の密度よりもかなり少なければ、水素原子同士が出会うことが少なく、水素原子同士がお互いに衝突するまでは、原子として存在することが出来ると思います。ただ、どれくらいの時間かということは、簡単な計算では求めることが出来ません。
真空中に水素原子を注入する場合には、水素原子の密度にもよりますが、お互いに衝突する確率はヘリウム中よりも格段に上がります。
真空中に水素を注入して水素原子だけで1気圧にしたとします(これはほとんど不可能に近いので、思考実験と考えてください)このとき、水素同士が衝突する距離は平均で、約1μmです。水素原子としての速さは300Kの温度では、約1800m/sですので、割り算すると衝突する平均時間は約6ナノ秒という短い時間になり、これが、1気圧における水素原子として存在出来る時間になります。しかし、水素原子の圧力が10億分の1気圧であれば、6秒ぐらいの間は水素原子でいることが出来ます。
もし、1気圧のヘリウムガス中に10億分の1気圧に相当する水素原子を注入すれば、かなり長い時間原子として生存することは可能かと思います。
投稿: 一宮 | 2018年9月20日 (木) 22時57分
一宮さま
返信ありがとうございます。
原子として存在できる時間は、原子が衝突する時間として求めれば良いのですね。分かりました。
読んでいて気になったことがあります。
①水素原子を注入しようと思ったとき、水素原子はどうやって作るのですか。(エネルギーをかけて共有結合を切る?)
②ヘリウムガスの中に水素原子を注入する実験は可能だとあるのですが、水素原子を入れてある容器内で水素原子が水素分子に変わってしまわないのですか。
よろしくお願いします。
投稿: 小倉 | 2018年9月21日 (金) 15時02分
小倉さま
ご返事ありがとうございます。
①についてですが、タングステンの表面には水素は乖離吸着することが知られています。そこで、水素ガス中でタングステンフィラメントを2000℃以上に加熱すれば、タングステンに衝突した水素分子は乖離して、原子として飛び出します。ただし、飛び出した水素原子は他の水素原子と衝突すると分子に戻ってしまいますが、真空中で、加熱したタングステンフィラメントに水素を吹き付けることで、水素原子ビームとして取り出すことが出来ます。
②上の方法で、ヘリウムガス中に水素ガスを混ぜて、タングステンフィラメントを加熱することで、水素原子を注入できるかと思うのですが、これはやってみないと分かりません。へイルムガスの密度が高く、水素分子の密度が低ければ可能なはずです。
投稿: 一宮 | 2018年9月21日 (金) 17時55分